親や配偶者が残した分譲マンションを相続することになったとき、多くの方が「何から手をつければよいのか分からない」という戸惑いを感じます。戸建てと異なり、マンションには管理費や修繕積立金といった毎月の固定費が発生し、土地は「敷地権」という特殊な権利として登記されています。相続税の評価方法も2024年(令和6年)1月から新しいルールが導入され、判断がいっそう複雑になりました。
国土交通省の統計によれば、日本の分譲マンションのストックは2023年末時点でおよそ704万戸に達しており、そのうち築40年を超える物件は今後10年で3倍近くに増えると見込まれています。つまり「マンションを相続する」という場面は、これからますます身近になっていきます。本記事では、マンション相続の全体の流れから相続税評価、名義変更、管理費滞納の承継、遺産分割、売却か賃貸かの判断まで、実務に沿って順を追って解説します。
相続の手続きには期限が定められているものが少なくありません。特に相続登記は2024年4月から義務化され、正当な理由なく怠ると過料の対象となります。「まだ先でよい」と後回しにすると、思わぬ不利益を被るおそれがあります。まずは全体像を把握し、優先順位をつけて進めることが大切です。
・マンションを相続したときの手続きの全体の流れ
・相続税評価のしくみと2024年の新ルール(マンション評価通達)
・名義変更(相続登記)の義務化と過料のリスク
・管理費・修繕積立金の滞納が相続人に承継されるしくみ
・遺産分割の4つの方法と、売却・賃貸・保有の判断軸
☐ 相続税がかかるのか、評価額がいくらになるのか知りたい
☐ 兄弟姉妹でどう分ければよいか迷っている
☐ 管理費や修繕積立金の滞納があるかもしれず不安
☐ 売るべきか、貸すべきか、持ち続けるべきか判断したい
目次
第1章 マンション相続の全体の流れ
第2章 相続税評価のしくみ(土地+建物・2024年新ルール)
第3章 名義変更=相続登記(義務化・過料)
第4章 管理費・修繕積立金の滞納の承継(区分所有法8条)
第5章 遺産分割の4つの方法
第6章 売却・賃貸・保有の判断
第7章 よくある質問(Q&A)
まとめ
本記事は2026年7月時点の一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の相続手続き・税額・法的判断を保証するものではありません。相続税評価や税務の取り扱いは物件・家族構成ごとに大きく異なります。実際の手続きにあたっては、税理士・司法書士・弁護士等の専門家に必ずご確認ください。
第1章 マンション相続の全体の流れ
・相続発生から完了までの4つのステップ
・それぞれの手続きに関わる期限
・最初に確認しておくべき書類
マンションの相続は、大きく分けて次の4つのステップで進みます。順番を意識すると、全体の見通しが立てやすくなります。
①相続人の確定と遺言の確認 まず、誰が相続人になるのかを戸籍で確定します。被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの連続した戸籍を集め、法定相続人を漏れなく把握します。あわせて遺言書の有無を確認します。公正証書遺言であれば公証役場で検索でき、自筆証書遺言が自宅で見つかった場合は、原則として家庭裁判所の「検認」手続きが必要になります。
②遺産分割協議 遺言がない場合、または遺言でカバーされない財産がある場合は、相続人全員で誰が何を取得するかを話し合います。合意した内容は遺産分割協議書にまとめ、相続人全員が署名し実印を押します。マンションの名義変更にはこの協議書が必要になります。
③相続登記(名義変更) マンションの所有権を被相続人から相続人へ移す登記を、法務局に申請します。後述のとおり2024年4月から義務化されており、期限内の手続きが求められます。マンションは「敷地権付き区分建物」として登記されるのが一般的です。
④売却・賃貸・保有の判断 名義変更が済んだら、そのマンションを売るのか、貸すのか、自分や家族で住み続けるのかを判断します。管理費・修繕積立金などの固定費や、築年数・立地を踏まえて検討します。
・相続の放棄・限定承認:自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(民法915条)
・所得税の準確定申告:相続の開始を知った日の翌日から4か月以内
・相続税の申告・納付:相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内(相続税法27条)
・相続登記の申請:不動産を取得したことを知った日から3年以内(不動産登記法76条の2、2024年4月1日施行)
特に注意したいのは、相続放棄を検討する場合の3か月という期限です。マンションに多額のローン残債や管理費の滞納がある、あるいは他に借金があるといったケースでは、相続するかどうかを早めに見極める必要があります。判断に迷うときは、期限を延ばす手続き(期間伸長の申立て)も含めて専門家に相談することが考えられます。
相続放棄をすると、マンションだけでなくプラスの財産も含めてすべての相続権を失います。「マンションだけ放棄する」ということはできません。財産全体を見渡したうえで判断することが重要です。
☑ マンション相続は「相続人確定→遺産分割→相続登記→活用判断」の4ステップ
☑ 相続放棄は3か月、相続税申告は10か月、相続登記は3年という期限がある
☑ 最初に戸籍と遺言、そして管理費滞納やローン残債の有無を確認する
第2章 相続税評価のしくみ(土地+建物・2024年新ルール)
・マンションの相続税評価は「土地+建物」で構成される
・2024年から始まった「居住用の区分所有財産の評価」の新ルール
・タワーマンションの評価がどう変わったか
マンションの相続税評価額は、大きく土地(敷地利用権)と建物(区分所有する専有部分)の2つを合算して求めます。それぞれの評価方法は次のとおりです。
土地部分の評価
マンションの敷地は、区分所有者全員が「敷地権」という形で共有しています。土地部分の評価は、原則として路線価方式(その土地が面する道路に付された1平方メートルあたりの価額)で敷地全体を評価し、そこに自分の持分にあたる敷地権割合を掛けて算出します。敷地権割合は登記事項証明書に記載されています。路線価が設定されていない地域では、固定資産税評価額に一定の倍率を掛ける倍率方式を用います。
建物部分の評価
専有部分の建物は、固定資産税評価額がそのまま相続税評価額になります。固定資産税評価額は、毎年送られてくる固定資産税の課税明細書や、市区町村で取得できる固定資産評価証明書で確認できます。一般に新築時の建築費の5〜7割程度が目安とされますが、築年数の経過とともに下がっていきます。
たとえば、路線価が1平方メートルあたり30万円の道路に面する敷地面積2,000平方メートルのマンションで、自分の敷地権割合が1万分の80だったとします。この場合、土地部分の評価は「30万円×2,000平方メートル×80/10,000」でおおむね480万円が一つの目安となります。ここに建物(専有部分)の固定資産税評価額を加えたものが、補正前の相続税評価額のベースになります。実際には奥行や形状に応じた各種補正が加わるため、あくまで考え方を示すための概算です。
2024年からの新ルール(マンション評価通達)
従来、特に高層階のタワーマンションでは、相続税評価額が実際の市場価格(時価)を大きく下回るケースが目立っていました。市場では高値で取引される高層階の住戸でも、相続税評価上は低層階とあまり変わらない評価になり、これを利用した「タワマン節税」と呼ばれる手法が問題視されていました。
こうした市場価格との乖離を是正するため、国税庁は「居住用の区分所有財産の評価について」(いわゆるマンション評価通達)を定め、2024年(令和6年)1月1日以降に相続・遺贈・贈与により取得した居住用マンションについて、新しい評価方法を適用しています。
新ルールの考え方はやや複雑ですが、概要としては、築年数・総階数・所在階・敷地持分の狭小度といった要素から「評価乖離率」を求め、従来の評価額(土地+建物)が市場価格と大きく乖離している場合に一定の補正率を掛けて評価額を引き上げる、というものです。
国税庁「居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)」令和5年9月28日付、令和6年1月1日以後に取得した財産に適用。評価水準(評価額÷市場価格)に応じて補正が行われるしくみです。
この補正により、従来低く抑えられていた評価額が、市場価格の6割程度を一つの目安とする水準に近づくよう見直されました。これは戸建て住宅の相続税評価が時価のおおむね6割前後になる実態とのバランスを取る趣旨とされています。もっとも、すべてのマンションで評価額が上がるわけではなく、もともと評価額と市場価格の乖離が小さい物件では、補正が行われない場合もあります。
評価乖離率や補正率の計算は、階数・築年数・敷地持分などの数値を用いる専門的な計算です。本記事の「6割程度」はあくまで一般的な目安であり、個別の物件の正確な評価額を示すものではありません。具体的な評価は税理士にご確認ください。
なお、被相続人が住んでいたマンションを配偶者や同居していた親族が相続するようなケースでは、一定の要件を満たすと小規模宅地等の特例により敷地部分の評価額を減額できる場合があります。適用の可否は要件が細かいため、専門家への確認が欠かせません。
☑ マンションの相続税評価は「土地(路線価×敷地権割合)+建物(固定資産税評価額)」
☑ 2024年1月1日以降、マンション評価通達により市場価格との乖離を補正するルールが適用
☑ 従来の「タワマン節税」は抑制方向。評価は市場価格の6割程度が一つの目安
第3章 名義変更=相続登記(義務化・過料)
・相続登記の義務化(2024年4月1日施行)の内容
・3年という期限と10万円以下の過料
・マンション特有の「敷地権付き区分建物」の登記
マンションを相続したら、所有権を相続人の名義に変更する相続登記を行う必要があります。これまで相続登記は任意とされ、費用や手間を理由に放置されるケースが多く、所有者不明土地の増加という社会問題の一因になっていました。
そこで不動産登記法76条の2が新設され、2024年(令和6年)4月1日から相続登記が義務化されました。相続によって不動産を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつその不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請しなければなりません。
正当な理由なくこの申請を怠った場合、10万円以下の過料の対象となることがあります。
「過料」は刑事罰である「科料」とは異なる行政上の秩序罰ですが、金銭的な負担が生じる点は同じです。遺産分割の話し合いが長引くなど、すぐに登記できない事情がある場合には、相続人申告登記という簡易な手続きで義務を一旦果たすこともできます。これは「自分が相続人である」ことを法務局に申し出る制度で、単独で申請でき、添付書類も比較的簡素です。
・不動産登記法76条の2(相続等による所有権の移転の登記の申請)2024年4月1日施行
・同法164条1項(申請を怠った場合、10万円以下の過料)
・相続登記の義務化は施行日前に発生した相続にも適用され、その場合は原則として2027年3月31日までが申請期限とされています
過去に相続したまま名義変更をしていないマンションがある場合も、義務化の対象になり得ます。「親が亡くなってから何年も経っている」というケースこそ、早めの確認が求められます。
マンションは「敷地権付き区分建物」として登記される
マンションの登記は、戸建てと少し異なります。多くの分譲マンションでは、専有部分(建物)と敷地利用権(土地)が一体化された敷地権付き区分建物として登記されています。この場合、建物の登記に土地の権利も含まれるため、原則として建物と土地を別々に登記する必要はなく、一体で名義変更ができます。登記事項証明書の「表題部」に敷地権の表示があるかどうかで確認できます。
相続登記の申請には、被相続人の出生から死亡までの戸籍、相続人の戸籍、遺産分割協議書と印鑑証明書、固定資産評価証明書などが必要です。書類の収集や登記申請書の作成に不安がある場合は、登記の専門家である司法書士に依頼するのが一般的です。
☑ 相続登記は2024年4月1日から義務化(不動産登記法76条の2)
☑ 取得を知った日から3年以内。怠ると10万円以下の過料の対象
☑ マンションは「敷地権付き区分建物」として土地・建物一体で登記されるのが一般的
第4章 管理費・修繕積立金の滞納の承継(区分所有法8条)
・被相続人が滞納していた管理費・修繕積立金はどうなるのか
・区分所有法8条が定める「特定承継人」の責任
・相続時に管理組合へ確認すべきこと
マンション相続で見落とされがちなのが、管理費や修繕積立金の滞納です。もし被相続人が生前にこれらを滞納していた場合、その未払い分はどうなるのでしょうか。
結論から言えば、滞納分は相続人が引き継ぐことになります。これには2つの根拠があります。1つは、相続によって被相続人の債務も承継されるという民法の原則です。もう1つが、マンション特有のルールである建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)8条です。
区分所有法8条は、管理費や修繕積立金といった債権について、区分所有権を取得した「特定承継人」に対しても請求できると定めています。特定承継人とは、売買で買った買主や、相続で取得した相続人などを指します。つまり、たとえ自分が滞納したわけでなくても、そのマンションを取得した以上、前の所有者の滞納分の支払いを管理組合から求められる可能性があるということです。
建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)第8条:共用部分の管理費用などに関する債権は、債務者である区分所有者の「特定承継人」に対しても行うことができる旨を規定。管理費・修繕積立金の滞納分が新所有者に承継される根拠となっています。
マンションを相続・購入する際は、必ず管理組合や管理会社に滞納の有無と金額を確認しましょう。
滞納額が大きい場合、相続後にまとまった支払いを求められて資金繰りに困るケースもあります。売却を検討する際にも、滞納分は最終的に買主に承継され得るため、価格交渉に影響します。
滞納の有無を確認する方法
管理組合が発行する管理費等の滞納状況を記載した書面で確認するのが確実です。中古マンションの取引では、売主から買主へ交付される「重要事項に係る調査報告書」に管理費・修繕積立金の額や滞納の有無が記載されるのが一般的です。相続の場合も、管理会社に問い合わせれば滞納状況を教えてもらえることが多いため、名義変更や活用方針を決める前に確認しておくと安心です。
滞納分の管理費・修繕積立金には、時効(一般に5年)が関係する場合もありますが、時効を主張できるかどうかは状況により異なります。多額の滞納が判明したときは、支払う前に弁護士等へ相談することが考えられます。
☑ 被相続人の管理費・修繕積立金の滞納分は相続人が承継する
☑ 区分所有法8条により、取得した「特定承継人」に請求できると定められている
☑ 相続・購入時は必ず管理組合・管理会社に滞納の有無と金額を確認する
第5章 遺産分割の4つの方法
・マンションを複数の相続人で分ける4つの方法
・それぞれのメリット・デメリット
・共有名義がトラブルになりやすい理由
マンションのように物理的に分けられない財産を複数の相続人で分割するには、いくつかの方法があります。代表的な4つを整理します。
| 分割方法 | 内容 | 向いているケース/注意点 |
|---|---|---|
| 現物分割 | マンションはそのまま特定の相続人が取得し、他の財産(預貯金など)を別の相続人が取得する | 他に十分な財産があり、公平に分けられる場合。財産が偏ると不公平になりやすい |
| 代償分割 | 1人がマンションを取得し、他の相続人に代償金を支払って精算する | 特定の相続人が住み続けたい場合。取得者に代償金を用意できる資力が必要 |
| 換価分割 | マンションを売却し、得られた現金を相続人で分ける | 誰も住む予定がなく現金化したい場合。売却の手間・費用・譲渡益への課税に留意 |
| 共有 | 複数の相続人が持分を分け合って共同で所有する | 一見公平だが、売却や活用に全員の合意が必要でトラブルになりやすく、原則として避けたい |
現物分割は最もシンプルですが、マンション以外にめぼしい財産がないと、取得する人としない人の間で不公平が生じやすくなります。
代償分割は、たとえば親と同居していた子がそのまま住み続けたい場合に有効です。ただし、マンションを取得する人が他の相続人へ支払う代償金(現金)を準備できることが前提になります。評価額の算定でもめやすいため、不動産の評価額をどう決めるかを事前に話し合っておくことが大切です。
換価分割は、誰も住む予定がなく、公平に現金で分けたい場合に選ばれます。売却により生じた利益(譲渡所得)には税金がかかる場合があるため、手取り額を意識した計画が必要です。
共有名義にすると、その後の売却・大規模リフォーム・賃貸などに共有者全員の合意が必要になります。相続人の一人が反対したり、さらに次の相続が発生して共有者が増えたりすると、意思決定が極めて難しくなります。将来の紛争を避けるため、共有は慎重に検討することが望まれます。共有名義の不動産を売却する方法については、関連記事もあわせてご覧ください。
どの方法を選ぶかは、相続人の人数・関係性、他の財産の有無、マンションに住み続けたい人がいるかどうかによって変わります。感情的な対立に発展しやすい場面でもあるため、早い段階で不動産会社の査定額など客観的な材料を用意し、必要に応じて弁護士や司法書士に間に入ってもらうと、話し合いが進めやすくなります。
☑ 分割方法は「現物分割・代償分割・換価分割・共有」の4つ
☑ 代償分割は取得者の資力、換価分割は譲渡益への課税に留意
☑ 共有は将来の紛争リスクが高く、原則として避けたい
第6章 売却・賃貸・保有の判断
・売却・賃貸・保有それぞれの向き・不向き
・見落としがちな固定コスト(管理費・修繕積立金・固定資産税)
・相続空き家の3,000万円特別控除がマンションでは原則対象外である点
名義変更が済んだら、そのマンションをどう活用するかを決めます。選択肢は大きく「売却」「賃貸」「保有(自分や家族が住む)」の3つです。判断のカギを握るのが、マンション特有の固定コストです。
マンションを所有し続ける限り、管理費・修繕積立金・固定資産税(都市計画税を含む)が継続的に発生します。特に修繕積立金は、築年数の経過や大規模修繕の計画に伴って段階的に値上がりしていくのが一般的です。誰も住まない空室のまま保有すると、これらの固定費が持ち出しになり続けます。
| 選択肢 | 向いているケース | 主な留意点 |
|---|---|---|
| 売却 | 誰も住む予定がなく、固定費の負担を避けたい | 譲渡益への課税、仲介手数料、売却までの時間 |
| 賃貸 | 立地がよく賃貸需要が見込め、資産として持ち続けたい | 空室リスク、原状回復・修繕費、管理の手間、家賃下落 |
| 保有(居住) | 相続人自身や家族が住む、将来の住まいとして活用 | 固定費の負担、老朽化への対応 |
売却は、固定費の負担から解放され、現金化して相続人で分けやすいという利点があります。築年数が進むほど売却価格は下がる傾向があるため、活用予定がないなら早めの判断が有利に働くケースもあります。
賃貸は、立地がよく賃貸需要が見込める物件であれば、家賃収入を得ながら資産として保有できます。ただし、空室が続けば管理費・修繕積立金を払いながら収入がゼロという状態になり、入居者募集や修繕対応の手間もかかります。家賃から管理費・修繕積立金・固定資産税・賃貸管理会社への委託料を差し引いた「手残り」で採算を判断することが重要です。たとえば月8万円で貸せても、管理費と修繕積立金で月2万5,000円、固定資産税を月割りで約1万円、賃貸管理委託料が家賃の5%で4,000円かかれば、実際の手残りは月4万円前後に縮みます。ここに退去時の原状回復費や将来の設備交換費用も見込む必要があります。
保有(居住)は、相続人自身や家族がそのまま住む、あるいは将来の住まいとして確保しておくケースです。住み慣れた住環境を維持できる一方で、居住していても管理費・修繕積立金・固定資産税は発生し続けます。老朽化に伴う専有部分のリフォーム費用も自己負担となる点を踏まえ、無理のない範囲かどうかを見極めることが望まれます。
相続空き家の3,000万円特別控除に注意
相続した不動産を売却する際、一定の要件を満たすと譲渡所得から最大3,000万円を控除できる「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」があります。しかし、この特例は区分所有建物(マンション)は原則として対象外とされている点に注意が必要です。
相続空き家の3,000万円特別控除は、原則として「昭和56年5月31日以前に建築された一戸建て」などを対象としており、区分所有建物であるマンションは原則として適用できません。「相続した不動産だから3,000万円控除が使える」と早合点しないよう注意が必要です。適用の可否は要件が細かく定められているため、売却前に税理士へご確認ください。
一方で、相続税を納めた場合には、相続開始から一定期間内に売却することで納めた相続税の一部を取得費に加算できる「取得費加算の特例」を利用できる場合があります。どの特例が使えるかは個別の状況によって変わるため、売却のタイミングを含めて専門家と相談することが望まれます。
売却を選ぶ場合、価格は不動産会社によって差が出ることがあります。複数社の査定を比較することで、相場観をつかみやすくなります。当社では相続したマンションの無料査定を承っており、固定費や税務も含めた総合的なご相談に対応しています。
☑ 管理費・修繕積立金・固定資産税という固定コストが判断の起点
☑ 売却は固定費解消と現金化、賃貸は収入と空室リスクのバランス
☑ 相続空き家の3,000万円特別控除はマンションでは原則対象外
第7章 よくある質問(Q&A)
・マンション相続で寄せられることの多い疑問への回答
・手続き・費用・税金に関する実務的なポイント
Q1.相続したマンションに住宅ローンが残っています。どうなりますか?
団体信用生命保険(団信)に加入していた場合、被相続人の死亡により保険金でローンが完済されるのが一般的です。まずは金融機関に団信の加入状況を確認しましょう。団信に加入していない場合は、ローン残債も相続の対象となり、相続人が返済を引き継ぐことになります。残債が資産を上回るようなときは、相続放棄も選択肢に入ります。
Q2.遺産分割がまとまらないうちに相続登記の期限が来てしまいそうです。
前述の相続人申告登記を利用することで、遺産分割が決まっていなくても登記義務を一旦果たすことができます。単独で申請でき、自分が相続人であることを申し出る簡易な手続きです。その後、遺産分割が成立したら、あらためて所有権の移転登記を行います。
Q3.マンションの評価額は誰に頼めば分かりますか?
相続税評価額(路線価・固定資産税評価額を用いた評価)は税理士に、市場での売却見込み価格は不動産会社に確認するのが一般的です。2024年からのマンション評価通達による補正計算は専門性が高いため、相続税が発生しそうな場合は早めに税理士へ相談することが望まれます。
Q4.管理費の滞納が数十万円あることが分かりました。支払う必要がありますか?
区分所有法8条により、マンションを取得した相続人は滞納分の支払いを管理組合から求められる可能性があります。ただし金額が大きい場合や、滞納が長期にわたる場合は時効の主張ができることもあります。支払う前に、管理組合との対応方針について弁護士等に相談することが考えられます。
Q5.相続したマンションをすぐに売っても問題ありませんか?
名義変更(相続登記)を済ませれば売却は可能です。ただし、相続税の納付資金を確保するために売る場合や、取得費加算の特例を活用したい場合は、売却のタイミングが手取り額に影響します。売り急ぐ前に、税務面も含めて専門家に相談すると安心です。
☑ ローンは団信の有無で扱いが大きく変わる。まず金融機関へ確認
☑ 分割未了なら相続人申告登記で登記義務を一旦果たせる
☑ 評価は税理士、売却見込み価格は不動産会社へ
まとめ
マンションの相続は、戸建てとは異なる管理費・修繕積立金という固定費、敷地権という特殊な登記、そして2024年から始まった相続税評価の新ルールなど、押さえておくべきポイントが数多くあります。手続きには相続放棄3か月・相続税申告10か月・相続登記3年といった期限があり、後回しにすると過料や資金繰りの問題につながりかねません。
特に、管理費・修繕積立金の滞納が相続人に承継されること、相続空き家の3,000万円特別控除がマンションでは原則対象外であることは、見落とされやすい重要な論点です。売却・賃貸・保有のいずれを選ぶにしても、固定コストと税務を踏まえた総合的な判断が求められます。
① マンション相続は「相続人確定→遺産分割→相続登記(2024年義務化・3年以内)→活用判断」の流れで進む
② 相続税評価は「土地+建物」。2024年のマンション評価通達で市場価格との乖離を補正するルールが適用される
③ 管理費・修繕積立金の滞納は区分所有法8条で相続人に承継。3,000万円特別控除はマンションでは原則対象外
当社では、相続したマンションの査定から、税理士・司法書士と連携した手続きのご相談まで、ワンストップで対応しています。「評価額を知りたい」「売るべきか貸すべきか迷っている」といった段階からでも、お気軽にご相談ください。
関連記事
・相続税申告と不動産評価のポイント
・共有名義の不動産を売却する方法
・相続登記の義務化(2024年)と10万円過料
・相続した実家を売却する3つの方法
・相続空き家を売った時の税金・3,000万円控除
本記事は2026年7月時点の法令・通達等に基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の相続手続き・税額・法的判断を保証するものではありません。相続税評価・特例の適用可否・登記手続き・管理費の取り扱いなどは、物件や家族構成、時期により結論が異なる場合があります。実際の手続きにあたっては、税理士・司法書士・弁護士等の専門家に必ずご確認ください。本記事の情報に基づいて生じたいかなる損害についても、当社は責任を負いかねます。
運営:ヘリテージリンク株式会社|東京・埼玉エリアの相続不動産・空き家の査定・売却・管理