「実家は、親が元気なうちに売ってしまったほうがよいのか。それとも、相続してから売るほうが得なのか」——高齢の親を持つ方から、当社にも数多く寄せられるご相談です。同じ一軒の家を売るのでも、親の生前に親自身が売るのか、相続後に相続人が売るのかで、使える税金の特例も、かかる手間も、避けられるリスクも大きく変わってきます。
たとえば、居住用の自宅を売ったときの譲渡所得から最大3,000万円を差し引ける特別控除は、生前に親が売る場合と、相続後に空き家を売る場合とで、適用の条件も対象となる人も異なります。さらに相続後の売却では、支払った相続税の一部を取得費に加算できる特例や、土地の相続税評価を大きく下げられる小規模宅地等の特例といった、相続ならではの制度がかかわってきます。
一方で、税金だけを見て「相続後のほうが有利」と早合点するのも危険です。親が認知症になってしまうと、実家を売ること自体が難しくなり、成年後見制度を使わなければ売却できなくなるケースもあります。空き家として何年も管理し続ける負担や、相続人どうしで「売る・売らない」がまとまらずもめてしまうリスクも、判断の材料に加えなければなりません。本記事では、生前売却と相続後売却それぞれの特徴を、税・手間・リスクの三つの軸で丁寧に比較していきます。
・生前売却と相続後売却で、誰にどんな税金がかかるのかの違い
・マイホーム3,000万円控除・相続空き家3,000万円控除・取得費加算・小規模宅地等の特例の使い分け
・認知症リスクや空き家管理、遺産分割のもめごとといった「税金以外」の判断軸
・親が高齢/空き家になりそう/相続人でもめそう、といったケース別の考え方
・売却を検討し始めたら、どの順番で何を進めればよいのか
☐ 高齢の親が住む実家を、いつ・どう売るか迷っている方
☐ 「生前に売ったほうが得か、相続まで待つべきか」を税金の面から知りたい方
☐ 実家がいずれ空き家になりそうで、管理の負担が不安な方
☐ 相続人が複数いて、不動産の分け方でもめないか心配な方
☐ 親の認知症が進む前に、資産の整理を考えておきたい方
目次
第1章 生前売却の特徴(親が売る・税金・認知症リスク)
第2章 相続後売却の特徴(取得費加算・空き家3000万控除・小規模宅地)
第3章 生前売却 vs 相続後売却 徹底比較表
第4章 ケース別の判断(親が高齢・空き家・もめそう ほか)
第5章 やることの順序(検討から売却までの進め方)
第6章 よくある質問(Q&A)
まとめ
本記事は2026年7月時点の一般的な情報提供を目的としたものです。税金の特例が使えるかどうか、どちらの売り方が有利になるかは、ご家庭の資産構成・居住状況・相続税額・家族関係によって大きく異なり、一律の正解はありません。実際の税額の試算や特例の適用可否については、必ず税理士等の専門家へご確認ください。
第1章 生前売却の特徴(親が売る・税金・認知症リスク)
・生前売却とは何か、誰にどんな税金がかかるのか
・生前売却で使える可能性のあるマイホーム3,000万円特別控除
・生前売却の最大の落とし穴——親の認知症リスク
生前売却とは、実家の所有者である親が、存命のうちに自分の意思で不動産を売却することをいいます。売主はあくまで親本人であり、売却によって生じた利益(譲渡所得)に対する税金も、原則として親に課税されます。売却して得たお金は親の財産となり、その後の相続では「不動産」ではなく「現金・預金」として引き継がれることになります。
生前売却の大きな意味は、親が元気なうちに、自分の判断で資産を現金化しておける点にあります。売却代金を老後の生活費や施設への入居費用に充てたり、あらかじめ現金の形にしておくことで、相続時に「不動産を誰がどう分けるか」でもめる火種を減らしたりできる可能性があります。分けにくい不動産を、分けやすい現金に変えておくという発想です。
生前売却で使える可能性のある「マイホーム3,000万円特別控除」
親が今も住んでいる自宅を売る場合、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(いわゆるマイホーム特例)が使える可能性があります。これは、自宅を売って得た譲渡所得から最大3,000万円を差し引ける制度で、譲渡所得が3,000万円以内に収まれば、譲渡所得税がかからない計算になるケースもあります。
国税庁タックスアンサー No.3302「マイホームを売ったときの特例」/租税特別措置法35条。マイホーム(居住用財産)を売却した場合、所有期間の長短にかかわらず、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できるとされています。適用には「自分が住んでいる家屋であること」など一定の要件があり、住まなくなってから一定期間内の売却などの条件も定められています。
ポイントは、この特例が「所有者本人が住んでいる(住んでいた)自宅」であることを前提としている点です。親が実際に住んでいる家を親自身が売るのであれば、要件を満たしやすいといえます。一方、親が施設に入って長く空き家になっている、すでに別の人が住んでいる、といった状況では、同じ「マイホーム特例」でも適用の可否が変わってくることがあります。適用できるかどうかは個別の事情によるため、税理士へご確認ください。
生前売却の最大の落とし穴——親の「認知症」リスク
生前売却を考えるうえで、税金以上に注意しておきたいのが親の判断能力の問題です。不動産の売買契約は法律行為であり、契約を有効に結ぶには、売主本人にその内容を理解し判断する能力(意思能力)が必要です。親の認知症が進み、判断能力が失われたと見なされる状態になると、本人による売買契約そのものが難しくなってしまいます。
この状態になると、家族であっても勝手に親の不動産を売ることはできません。売却するには、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立て、後見人が本人に代わって手続きを行う必要が出てきます。しかも、居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要とされ、「本人の生活のために本当に必要か」といった観点から慎重に判断されるため、家族の希望どおりに売れるとは限りません。
「そのうち売ろう」と先延ばしにしているうちに親の認知症が進み、売りたくても売れなくなってしまう——これは実際によくあるケースです。生前売却を選択肢に入れるなら、親の判断能力がしっかりしているうちに動き始めることが重要になります。認知症と不動産売却の関係については、当社の別記事でも詳しく解説しています。
☑ 生前売却は親本人が売主で、譲渡所得税は親に課税され、代金は現金として相続財産になる
☑ 住んでいる自宅を親が売るならマイホーム3,000万円特別控除が使える可能性がある
☑ 親の認知症が進むと売却が困難になるため、判断能力があるうちの検討が重要
第2章 相続後売却の特徴(取得費加算・空き家3000万控除・小規模宅地)
・相続後売却とは何か、相続登記という前提
・相続後に使える可能性のある3つの特例(取得費加算・相続空き家3,000万円控除・小規模宅地等の特例)
・それぞれの特例に共通する「期限」の存在
相続後売却とは、実家の所有者である親が亡くなった後、相続人がその不動産を相続で引き継ぎ、名義を相続人へ変更(相続登記)したうえで売却することをいいます。売主は相続人であり、譲渡所得に対する税金も相続人に課税されます。2024年4月からは相続登記が義務化されており、売却の前提としても登記は避けて通れません。
相続後売却の特徴は、相続ならではの税の特例が複数使える可能性がある点にあります。これらの特例をうまく適用できれば、売却時の税負担や相続税評価を抑えられるケースがあります。ここでは代表的な3つの特例を順に見ていきます。
特例1:取得費加算の特例(相続税の一部を取得費に加算)
相続した不動産を売却したときに使える可能性があるのが取得費加算の特例です。譲渡所得は「売却額 − 取得費 − 譲渡費用」で計算されますが、この特例を使うと、相続の際に支払った相続税のうち、売却した不動産に対応する一定額を取得費に上乗せできます。取得費が増えれば譲渡所得が小さくなり、譲渡所得税の負担を抑えられる仕組みです。
租税特別措置法39条/国税庁タックスアンサー No.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」。相続または遺贈により取得した財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合、支払った相続税額のうち一定額を取得費に加算できるとされています。一般に「相続開始から3年10ヶ月以内」と表現される期限です。
この特例は、相続税を実際に納めた人が対象です。相続税がかからなかった場合には使えませんが、相続税を納めたうえで不動産を売るのであれば、期限内の売却によって譲渡所得税を軽減できる可能性があります。「相続開始から3年10ヶ月」という期限を過ぎると使えなくなる点に注意が必要です。
特例2:相続空き家の3,000万円特別控除
被相続人(親)がひとりで住んでいた家を相続し、その空き家(または取り壊した後の土地)を売る場合に使える可能性があるのが被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの3,000万円特別控除です。一定の要件を満たせば、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。
租税特別措置法35条3項/国税庁タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」。主な要件として、被相続人が亡くなる直前まで一人で居住していたこと、1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された家屋であること、相続開始から一定期間内(相続日から起算して3年を経過する日の属する年の年末まで)の売却であること、一定の耐震基準を満たすか家屋を取り壊すことなどが定められています。この特例の適用期限は2027年(令和9年)12月31日まで延長されています。
この控除は、生前売却で使う「マイホーム特例」と金額こそ同じ3,000万円ですが、対象や要件が異なります。親が最後まで一人暮らしだったこと、古い一戸建てであることなどの条件があるため、マンションや、親が亡くなる前に施設へ入っていたケースなどでは要件を満たさないこともあります。この特例と前述の取得費加算の特例は、原則としてどちらか一方を選ぶ形になるため、どちらが有利かは試算のうえで判断する必要があります。
特例3:小規模宅地等の特例(相続税評価を最大80%減)
3つ目は、売却時の譲渡所得税ではなく、相続税の計算にかかわる小規模宅地等の特例です。被相続人が住んでいた宅地などを一定の要件で相続した場合、相続税の課税価格を計算するうえで、その土地の評価額を最大80%減額できる制度です。
租税特別措置法69条の4/国税庁タックスアンサー No.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」。特定居住用宅地等に該当する場合、330㎡までの部分について評価額を80%減額できるとされています。配偶者が取得する場合や、同居していた親族が引き継いで居住を続ける場合など、取得者ごとに要件が定められています。
ここで重要なのは、小規模宅地等の特例は「その土地を相続すること」を前提とした相続税の特例だという点です。相続税の申告期限まで土地を保有・居住し続けることが要件となる場合があり、相続してすぐに売ってしまうと、取得者や売却のタイミングによっては適用できないことがあります。「相続で評価を下げてから、その後に売る」といった組み合わせが考えられますが、要件の判断は複雑なため、税理士への確認が欠かせません。詳しくは当社の別記事でも解説しています。
☑ 相続後売却は相続人が売主で、相続登記が前提。相続ならではの税特例が複数使える可能性がある
☑ 取得費加算(相続開始から3年10ヶ月以内)・相続空き家3,000万円控除(2027年末まで)・小規模宅地等の特例が代表例
☑ 特例には期限や細かな要件があり、併用の可否も含めて税理士の試算が重要
第3章 生前売却 vs 相続後売却 徹底比較表
・生前売却と相続後売却を「誰が売るか・税特例・リスク・手間」で一覧比較
・税金の面では相続後売却が有利になりやすい理由
・それでも一律の正解にならない理由
ここまで見てきた生前売却と相続後売却の特徴を、「誰が売るか」「使える税の特例」「認知症リスク」「相続税評価への影響」「手間・タイミング」といった観点で一覧に整理します。両者は得意・不得意がはっきり分かれるため、表で全体像をつかんでおくと判断がしやすくなります。
| 比較項目 | 生前売却(親が売る) | 相続後売却(相続人が売る) |
|---|---|---|
| 売主・課税対象 | 親本人。譲渡所得税は親に課税 | 相続人。譲渡所得税は相続人に課税 |
| 使える主な税特例 | マイホーム3,000万円特別控除(居住中の自宅) | 取得費加算・相続空き家3,000万円控除・小規模宅地等の特例など |
| 認知症リスク | 親の判断能力がないと売却困難(成年後見が必要になる場合) | 相続後は相続人が売主のため、この問題は生じにくい |
| 相続税評価への影響 | 現金化され、原則として現金の額で相続税評価される | 土地のまま相続すれば小規模宅地等の特例で評価減の可能性 |
| 相続時の分けやすさ | 現金なので分けやすく、もめにくくなる可能性 | 不動産のままだと分けにくく、共有や分割協議でもめやすい |
| 手間・タイミング | 親が元気なうちに動く必要がある | 相続発生後に登記・売却。特例ごとに期限がある |
この表を税金だけの視点で眺めると、使える特例の数は相続後売却のほうが多い傾向が見て取れます。取得費加算・相続空き家の3,000万円控除・小規模宅地等の特例といった相続ならではの制度が重なるケースでは、税額だけを比べれば相続後売却が有利になる場面が多いといえます。
ただし、これはあくまで「特例をすべて問題なく適用できた場合」の話です。相続空き家控除は親が最後まで一人暮らしだったことなどが要件で、小規模宅地等の特例も取得者や保有期間の条件があります。要件を満たせなければ、相続後だからといって自動的に税が軽くなるわけではありません。
税額の有利・不利は、資産構成・親の居住状況・相続税がかかるかどうか・家族関係によって逆転します。「相続後のほうが特例が多いから待とう」と決める前に、認知症リスクや空き家管理の負担、もめごとの可能性まで含めて総合的に考えることが大切です。税金の面だけで判断すると、かえって大きな負担を背負うこともあります。
つまり、生前売却と相続後売却のどちらが正解かは、一律には決められません。「税金の軽さ」を最優先するのか、「認知症で売れなくなるリスクの回避」や「相続でもめない安心」を優先するのかによって、選ぶべき道は変わってきます。次章では、よくあるケース別に考え方を整理します。
☑ 使える税特例の数は相続後売却のほうが多く、税額だけなら相続後が有利になりやすい
☑ ただし特例には要件があり、満たせなければ有利とは限らない
☑ 認知症・空き家管理・もめごとまで含めると一律の正解はなく、総合判断が必要
第4章 ケース別の判断(親が高齢・空き家・もめそう ほか)
・親がすでに高齢で、認知症が心配なケース
・実家が空き家になりそう/すでに空き家のケース
・相続人が複数いて、もめそうなケース
・相続税がかかりそうなケースと、かからないケース
生前売却と相続後売却のどちらを選ぶかは、ご家庭の状況によって重心が変わります。ここでは、当社によく寄せられる代表的な4つのケースを取り上げ、どちらに傾けて考えるとよいかの目安を整理します。あくまで一般的な考え方であり、最終判断は専門家の試算をふまえて行ってください。
ケース1:親がすでに高齢で、認知症が心配
親が高齢で、物忘れが増えてきた、判断力の衰えが気になる——こうしたケースでは、生前売却を早めに検討する意味が大きくなります。前述のとおり、認知症が進んで判断能力が失われると、本人による売却ができなくなり、成年後見制度を使わなければ売れなくなる可能性があるためです。
「税金は相続後のほうが安く済むかもしれないが、そもそも相続まで待つと売れなくなるかもしれない」というジレンマが生じるのがこのケースです。税額の差よりも、売却できる状態を確保しておくことを優先すべき場面といえます。判断能力がしっかりしているうちに、家族信託などの選択肢も含めて、早めに専門家へ相談しておくと安心です。
ケース2:実家が空き家になりそう/すでに空き家
親が施設に入る、あるいは亡くなって実家が空き家になる場合、「相続空き家の3,000万円特別控除」が視野に入ります。親が最後まで一人暮らしだった古い一戸建てなどでは、相続後に一定期間内で売却することで、この控除を活かせる可能性があります。この点では相続後売却が有利に働く場面です。
ただし、空き家は所有しているだけで固定資産税・管理の手間・老朽化のリスクがのしかかります。管理不全のまま放置すると「特定空家等」に指定され、固定資産税の住宅用地特例が外れて税負担が増えたり、行政指導の対象になったりすることもあります。控除の期限(相続日から起算して3年を経過する日の属する年の年末まで、制度全体は2027年末まで)と、空き家を持ち続ける負担を天秤にかけて判断することになります。
当社では、空き家となった相続不動産について、売却したときの税金の見通しや、いくらで売れそうかの査定を含めてご相談を承っています。「特例が使えるうちに売ったほうがよいのか」という段階から整理できます。
ケース3:相続人が複数いて、もめそう
子どもが複数いて、実家という「分けにくい財産」をめぐって相続でもめそうなケースでは、生前に売って現金化しておくことが、争いを避ける一つの方法になり得ます。不動産は物理的に切り分けられないため、相続人の一人が住み続けたい、別の一人は売って現金で分けたい、と意見が割れると、遺産分割協議が難航しがちです。
あらかじめ親の意思で売却して現金にしておけば、相続時には金額で公平に分けやすくなり、「誰が家を継ぐか」「代償金をどう払うか」といったもめごとの火種を減らせる可能性があります。ただし、生前に売れば相続税評価を下げる小規模宅地等の特例は使えなくなるため、もめごと回避のメリットと、税額のデメリットを見比べる必要があります。
相続後に不動産のまま共有名義で相続すると、売却や活用のたびに共有者全員の同意が必要になり、将来さらに相続が重なって共有者が増える「共有の泥沼化」を招くことがあります。もめそうなケースほど、早い段階で方針を決めておくことが望まれます。
ケース4:相続税がかかりそう/かからない
相続税がかかるかどうかも、判断を左右します。相続税は基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える遺産に課税されるため、資産が基礎控除の範囲に収まる家庭では、そもそも相続税がかかりません。この場合、相続税を前提とする取得費加算の特例や小規模宅地等の特例のメリットは受けられないことになります。
相続税がかからない見込みで、かつ実家が居住中の自宅であれば、生前にマイホーム特例を使って売る選択も現実的です。逆に、相続税がかかる見込みで、親が一人暮らしの古い家に住んでいるようなケースでは、相続後に複数の特例を組み合わせる余地があります。このように、相続税の有無が生前・相続後の有利不利を分ける重要な分岐点になります。
☑ 認知症が心配なら、売れなくなる前に生前売却を早めに検討する意味が大きい
☑ 空き家は相続空き家控除が使える可能性がある一方、持ち続ける負担も考慮する
☑ もめそうなら生前の現金化が有効。相続税の有無も有利不利を左右する
第5章 やることの順序(検討から売却までの進め方)
・生前売却か相続後売却かを判断するための情報の集め方
・税理士・不動産会社への相談のタイミング
・実際に売却へ進む場合の大まかな流れ
生前売却と相続後売却のどちらを選ぶにしても、いきなり結論を出すのではなく、①現状の把握 → ②専門家への相談・試算 → ③方針決定 → ④売却の実行という順序で進めると、判断のブレや後悔を減らせます。ここでは各ステップを整理します。
ステップ1:資産と家族の状況を書き出す
まず、実家の概算価値・親の居住状況・親の判断能力・相続人の人数と関係・おおよその資産総額を整理します。これらは、生前・相続後どちらが向くかを判断する土台になる情報です。たとえば「親は元気で自宅に居住中/相続人は子2人/資産は基礎控除内」であれば、マイホーム特例を使った生前売却が候補になりますし、「親は一人暮らしの古い家/相続税がかかりそう」であれば相続後売却の特例が視野に入ります。
この段階で、家の名義(単独か共有か)や、登記が古いまま残っていないかも確認しておくとよいでしょう。名義が祖父のまま放置されているような場合、売却の前に相続登記の整理が必要になることがあります。
ステップ2:税理士に税額を試算してもらう
本記事で繰り返し述べてきたとおり、生前売却と相続後売却の有利・不利は税額で大きく変わり、特例の適用可否は要件次第です。感覚で決めず、税理士に具体的な試算を依頼することが、遠回りに見えて最も確実です。「生前に売った場合」「相続後に売った場合」で税額がどう変わるかを数字で比較してもらえば、判断の精度が格段に上がります。
不動産の売却額の見込みは、この試算の前提になります。そのため、税理士への相談と並行して、不動産会社に査定を依頼し、実家がいくらで売れそうかの目安をつかんでおくと、税額試算もより現実的なものになります。
ステップ3:方針を決めて売却を実行する
現状把握と試算がそろったら、「税額」「認知症リスク」「もめごと回避」「空き家管理の負担」のうち、ご家庭にとって何を優先するかをふまえて方針を決めます。生前売却を選ぶなら、親の判断能力があるうちに、本人の意思を確認しながら売却を進めます。相続後売却を選ぶなら、相続発生後に相続登記を済ませ、各特例の期限(取得費加算は3年10ヶ月、相続空き家控除は相続日から一定期間内など)を意識しながら売却を進めることになります。
当社では、こうした一連の流れを、提携する税理士・司法書士と連携しながらワンストップでサポートしています。「そもそも今売るべきか、待つべきか」という入口の段階から、売却の実行までを一貫してご相談いただけます。どちらが正解か迷っている段階でこそ、専門家を交えた整理が役に立ちます。
☑ 「現状把握→試算→方針決定→実行」の順で進めると判断のブレを減らせる
☑ 税理士に「生前」「相続後」両方の税額を試算してもらうのが最も確実
☑ 査定で売却額の目安をつかみ、優先順位をふまえて方針を決める
第6章 よくある質問(Q&A)
・生前売却と相続後売却について実務でよく寄せられる疑問への回答
・特例の併用や期限にまつわる素朴な質問の整理
Q1.結局、生前売却と相続後売却はどちらが得ですか?
一律に「こちらが得」とは言えないというのが正直な答えです。使える税特例の数だけを見れば相続後売却のほうが多く、税額だけなら相続後が有利になるケースが多い傾向があります。しかし、親の認知症リスク・空き家の管理負担・相続でもめる可能性などを含めると、生前に整理しておくほうがよい場合もあります。資産構成やご家族の状況によって逆転するため、税理士の試算をふまえた判断をおすすめします。
Q2.マイホーム特例と相続空き家の3,000万円控除は同じものですか?
控除額はどちらも最大3,000万円ですが、別の特例です。マイホーム特例(措法35条)は「所有者本人が住んでいる(住んでいた)自宅」を売るときの制度で、生前売却で使う場面が中心です。相続空き家の3,000万円控除(措法35条3項)は「被相続人が一人で住んでいた古い家」を相続人が相続後に売るときの制度で、要件や対象者が異なります。どちらが使えるかは状況によるため、税理士へご確認ください。
Q3.取得費加算の「3年10ヶ月」を過ぎるとどうなりますか?
取得費加算の特例は、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(一般に相続開始から約3年10ヶ月以内)に売却した場合に使えます。この期限を過ぎて売却すると、取得費加算の特例は使えなくなります。相続後に売る予定があるなら、この期限を意識してスケジュールを組むことが大切です。
Q4.小規模宅地の特例を使ってから、すぐ売ってもよいですか?
小規模宅地等の特例は、取得者や宅地の種類によって「相続税の申告期限まで保有・居住を続けること」などの要件が課される場合があります。要件を満たす前に売却すると、特例が使えなくなることがあるため注意が必要です。「評価減を受けてから売る」という組み合わせを考える場合は、売却のタイミングを含めて税理士に確認することをおすすめします。
Q5.親が認知症になってからでは、もう売れないのですか?
判断能力が失われた後は、親本人による売却はできなくなりますが、家庭裁判所で成年後見人を選任すれば、後見人が本人に代わって売却手続きを行える場合があります。ただし居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要で、希望どおりに進むとは限りません。こうした事態を避けるためにも、判断能力があるうちの検討が望ましいといえます。
☑ どちらが得かは状況次第で、税特例の数では相続後、リスク回避では生前が優れる場面がある
☑ マイホーム特例と相続空き家控除は控除額は同じでも別制度で、対象が異なる
☑ 各特例には期限や保有要件があり、売却タイミングは税理士と相談して決めるのが安全
まとめ
実家を「親の生前に売る」か「相続後に売る」かは、同じ家を売る話でありながら、使える税の特例も、抱えるリスクも大きく異なります。生前売却は親自身が売主となり、居住中の自宅ならマイホーム3,000万円特別控除が使える可能性がある一方、親の認知症が進むと売却そのものが難しくなるという時間的な制約があります。
相続後売却は、取得費加算・相続空き家の3,000万円控除・小規模宅地等の特例といった相続ならではの制度を組み合わせられる可能性があり、税額だけを見れば有利になるケースが多い傾向があります。ただし各特例には要件と期限があり、空き家の管理負担や相続でのもめごとといった「税金以外のコスト」も見落とせません。どちらが正解かは、資産構成・居住状況・相続税額・家族関係によって変わり、一律の答えはありません。
① 生前売却は現金化と認知症リスク回避に強く、居住中の自宅ならマイホーム3,000万円控除が使える可能性
② 相続後売却は取得費加算・相続空き家3,000万円控除・小規模宅地等の特例など税特例が多く、税額では有利になりやすい
③ 認知症・空き家管理・もめごと・相続税の有無まで含めて総合判断が必要。税理士の試算で「生前」「相続後」を数字で比較を
大切なのは、税金の損得だけで決めつけないことと、判断のタイミングを逃さないことです。特に親が高齢の場合は、「まだ元気だから」と先延ばしにするうちに選択肢そのものが狭まってしまうことがあります。当社では、「今売るべきか、相続まで待つべきか」という入口の段階から、提携する税理士・司法書士と連携して無料でご相談を承っています。
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・相続した実家を売却する3つの方法
本記事は2026年7月時点の法令・制度をもとにした一般的な情報提供であり、個別の売却の結果や税額、特例の適用可否を保証するものではありません。マイホーム特例・相続空き家の3,000万円控除・取得費加算・小規模宅地等の特例などの適用要件や併用の可否、生前売却と相続後売却のどちらが有利になるかは、ご家庭の資産構成・居住状況・相続税額・家族関係によって異なります。具体的な税額の試算や手続きにあたっては、税理士・司法書士・弁護士等の専門家へ必ずご確認ください。
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