「親が亡くなったが、財産よりも借金のほうが多いらしい」「遠方に、管理もできない山林や古い実家を相続してしまいそうだ」——こうした場面で検討されるのが相続放棄(そうぞくほうき)です。相続放棄をすると、被相続人(亡くなった方)のプラスの財産もマイナスの財産も、一切引き継がないことになります。借金の返済義務から解放される一方、預貯金や不動産も受け取れません。

この相続放棄には、見落とすと取り返しのつかない大きな落とし穴があります。ひとつは「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」という厳しい期限(熟慮期間)です。もうひとつは、相続財産をうっかり使ったり処分したりすると、相続を承認したものとみなされ、放棄ができなくなるという点です(法定単純承認)。

相続放棄は、家庭裁判所への「申述」という正式な手続きを踏んで初めて効力を持ちます。親族間で「私は相続を放棄するね」と口約束をしただけでは、法律上の相続放棄にはなりません。本記事では、相続放棄とは何かという基本から、3ヶ月の期限とその起算点、家庭裁判所への申述手続きと必要書類・費用、やってはいけないこと、放棄した後に残る管理義務までを、民法の条文をもとに順を追って整理していきます。

💡 この記事でわかること
・相続放棄とは何か、単純承認・限定承認とどう違うのか
・「3ヶ月の熟慮期間」の意味と、いつから数え始めるのか(起算点)
・家庭裁判所への申述の流れ・必要書類・費用(収入印紙800円ほか)
・放棄が無効になりかねない「やってはいけないこと」(法定単純承認)
・放棄しても残る管理義務(2023年施行の改正民法940条)と次順位への影響
☐ こんな方に読んでいただきたい記事です
☐ 被相続人に借金がありそうで、相続すべきか迷っている方
☐ 遠方の不要な土地・空き家を相続したくないと考えている方
☐ 相続放棄の期限や手続きの流れを正確に知っておきたい方
☐ 「3ヶ月をもう過ぎてしまったかもしれない」と不安な方
☐ 自分が放棄した場合、他の親族にどう影響するのかを知りたい方

目次

第1章 相続放棄とは?単純承認・限定承認との違い
第2章 3ヶ月の熟慮期間と、その起算点
第3章 手続きの流れ・必要書類・費用
第4章 やってはいけないこと(法定単純承認)
第5章 放棄後の管理義務と次順位への影響(民法940条)
第6章 よくある質問(Q&A)
まとめ

🚨 重要な注意
本記事は2026年7月時点の一般的な情報提供を目的としたものです。相続放棄をすべきかどうかの判断や、期限の起算点・必要書類は、個々のご家庭の事情によって大きく異なります。具体的な手続きの判断にあたっては、弁護士・司法書士等の専門家へ必ずご確認ください。

第1章 相続放棄とは?単純承認・限定承認との違い

🎯 この章で解説すること
・相続放棄の基本的な意味と法的な位置づけ
・相続人が選べる3つの方法(単純承認・限定承認・相続放棄)
・限定承認との違いと、それぞれが向くケース

相続放棄とは、被相続人の権利義務を一切承継しないという意思表示です。相続放棄をすると、その相続に関してはじめから相続人とならなかったものとみなされます。預貯金・不動産・株式といったプラスの財産を受け取れない代わりに、借金・未払い金・連帯保証債務といったマイナスの財産も引き継ぎません。「プラスだけ受け取ってマイナスは放棄する」といった都合のよい選択はできず、すべてをまとめて引き継がない、という点が特徴です。

📖 出典・条文
民法915条〜940条(相続の承認及び放棄)。民法939条は「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」と定めています。相続放棄は、家庭裁判所への申述という手続きによって行います(民法938条)。

相続が始まると、相続人には大きく分けて3つの選択肢があります。この3つを正しく理解することが、相続放棄を検討する出発点になります。被相続人の財産状況、とりわけプラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いかによって、取るべき方法が変わってきます。

相続人が選べる3つの方法

1つ目は単純承認(たんじゅんしょうにん)です。プラスの財産もマイナスの財産も、すべて無限に引き継ぐ、最も一般的な相続の方法です。特別な手続きは不要で、熟慮期間内に何もしなければ、原則として単純承認をしたものとして扱われます。2つ目が限定承認(げんていしょうにん)で、相続で得たプラスの財産の範囲内でのみ、マイナスの財産(借金)を引き継ぐ方法です。3つ目が本記事のテーマである相続放棄で、プラス・マイナスを問わず一切を引き継がない方法です。

方法 引き継ぐ財産 手続き 向いているケース(一般に)
単純承認 プラスもマイナスも全部 原則手続き不要(何もしなければこの扱い) プラスの財産が明らかに多い
限定承認 プラスの範囲内でマイナスを負担 相続人全員で家庭裁判所へ申述 財産と借金のどちらが多いか不明
相続放棄 一切引き継がない 各自が家庭裁判所へ申述 借金が多い・不要な財産を承継したくない
⚠️ 注意
「単純承認・限定承認・相続放棄」のいずれも、熟慮期間(原則3ヶ月)の中で判断する必要があります。期間内に限定承認・相続放棄の手続きをしなければ、原則として単純承認をしたものとみなされる点に注意が必要です。

相続放棄と限定承認はどう違うのか

相続放棄とよく比較されるのが限定承認です。限定承認は、相続で得たプラスの財産を上限として、その範囲でのみ借金などを返済するという仕組みです。仮に借金がプラスの財産を上回っていても、プラスの財産を超える部分まで自腹で返済する必要はありません。「財産と借金のどちらが多いか分からない」「実家など残したい財産があるが、借金の総額が読めない」といったケースで検討される方法です。

ただし限定承認には、実務上のハードルがあります。まず、相続人全員が共同で家庭裁判所へ申述しなければならず、一人でも反対すると利用できません。また、財産の清算手続きが複雑で、みなし譲渡所得課税など税務上の論点も生じることがあり、実際に利用される件数は相続放棄に比べて多くありません。このため、借金が明らかに多いケースでは、手続きがシンプルで各自単独でできる相続放棄が選ばれる傾向があります。

当社には、相続した不動産に「価値があるのか、負担のほうが大きいのか分からない」というご相談も多く寄せられます。相続放棄をすべきかどうかは、不動産の価値や借金の有無を整理して初めて判断できるものです。当社では、相続した不動産の現状整理や査定を通じて、判断材料をそろえるお手伝いをしています(放棄の可否そのものは専門家の判断となります)。

✅ 本章のまとめ
☑ 相続放棄はプラスもマイナスも一切引き継がない意思表示(民法939条)
☑ 相続人は単純承認・限定承認・相続放棄の3つから選ぶ
☑ 限定承認は相続人全員での申述が必要で手続きが複雑なため、借金が多い場合は放棄が選ばれやすい

第2章 3ヶ月の熟慮期間と、その起算点

🎯 この章で解説すること
・相続放棄の期限「3ヶ月の熟慮期間」とは何か
・「いつから」3ヶ月を数えるのか(起算点の考え方)
・財産調査が間に合わないときの期間伸長の申立て

相続放棄で最も重要なのが期限です。相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所へ申述しなければならないと定められています。この3ヶ月間を熟慮期間(じゅくりょきかん)と呼びます。相続を承認するのか放棄するのかを、じっくり考えて決めるための期間という意味です。

📖 出典・条文
民法915条1項本文「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない」。同項ただし書きにより、この期間は家庭裁判所において伸長することができるとされています。

起算点は「死亡日」ではなく「知った時」

誤解されやすいのが、3ヶ月をいつから数えるかという起算点です。条文は「被相続人が死亡した日から」ではなく、「自己のために相続の開始があったことを知った時から」と定めています。つまり、原則として「被相続人が亡くなったこと」と「自分が相続人であること」の両方を知った時点が起算点になります。

たとえば、疎遠だった親族が亡くなり、しばらく経ってから「あなたが相続人です」と債権者からの通知で初めて知った、というケースがあります。この場合、死亡日ではなく、その通知などで相続人であると知った時点から3ヶ月を数えるのが原則的な考え方です。とはいえ、起算点がいつになるかは事情によって判断が分かれる繊細な問題であり、自己判断は禁物です。

場面 起算点の考え方(原則・一般に)
同居の親が亡くなった 通常、死亡を知った日から3ヶ月
疎遠な親族の相続で後日通知が届いた 相続人だと知った時から3ヶ月とされる場合がある
先順位者の放棄で自分が相続人になった 自分が相続人になったと知った時からとされる場合がある
⚠️ 注意
起算点の判断は個別性が高く、一律に「死亡日から3ヶ月」と決めつけるのは危険です。「もう3ヶ月を過ぎたのでは」と思われるケースでも、起算点の考え方によっては間に合う場合があります。期限が迫っている、あるいは過ぎたかもしれないと感じたら、まず弁護士・司法書士に相談することが大切です。

財産調査が間に合わないときは「期間伸長」

相続財産の全容がすぐには分からず、3ヶ月では承認か放棄かを判断しきれないこともあります。とくに事業を営んでいた被相続人の場合、借金や連帯保証の有無を調べるのに時間がかかることも少なくありません。このような場合には、熟慮期間が満了する前に家庭裁判所へ熟慮期間の伸長(延長)を申し立てることができます(民法915条1項ただし書き)。

この申立てが認められると、財産調査のための時間を追加で確保できます。重要なのは、あくまで3ヶ月の熟慮期間が過ぎる前に申し立てる必要があるという点です。期限を過ぎてしまってからでは、原則として伸長は認められません。「調べているうちに3ヶ月が経ってしまった」という事態を避けるためにも、判断に迷いそうな場合は、早めに専門家へ相談し、伸長の申立ても選択肢に入れておくと安心です。

当社では、相続した不動産の価値や状況の整理を通じて、「承認すべきか、放棄を検討すべきか」の判断材料を早期にそろえるお手伝いをしています。期限のある手続きだからこそ、財産の全体像を早く把握することが大切です。

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✅ 本章のまとめ
☑ 相続放棄の期限は「相続の開始を知った時から3ヶ月(熟慮期間)」(民法915条1項)
☑ 起算点は死亡日ではなく「相続人であると知った時」で、個別判断となる
☑ 調査に時間がかかる場合は、3ヶ月が過ぎる前に家庭裁判所へ期間伸長を申し立てられる

第3章 手続きの流れ・必要書類・費用

🎯 この章で解説すること
・相続放棄はどこに、どうやって申し立てるのか
・申述に必要な書類と、費用(収入印紙800円ほか)
・受理までの流れと「相続放棄申述受理通知書」の意味

相続放棄は、親族に口頭で伝えるだけでは成立しません。被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、相続放棄申述書を提出して申述するという、正式な手続きが必要です。ここでは、その具体的な流れと必要書類、費用を整理します。

ステップ1:管轄の家庭裁判所を確認する

相続放棄の申述先は、相続人の住所地ではなく、被相続人(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。たとえば被相続人が埼玉県に住んでいたなら、原則として埼玉県内の管轄家庭裁判所に申し立てます。相続人が遠方に住んでいる場合でも、被相続人の住所地の家庭裁判所が窓口になる点に注意が必要です。なお、遠方の場合は郵送で申述書を提出することも一般的に行われています。

ステップ2:必要書類と費用をそろえる

申述にあたっては、相続放棄申述書に加えて、戸籍関係の書類などが必要になります。必要書類は、放棄する人が被相続人とどのような関係か(配偶者・子・親・兄弟姉妹など)によって変わりますが、一般的には次のような書類が求められます。

項目 内容(一般的な例)
相続放棄申述書 家庭裁判所の書式に必要事項を記入
被相続人の住民票除票または戸籍附票 最後の住所地を示す書類
被相続人の死亡が分かる戸籍(除籍)謄本 死亡の事実を確認する書類
申述人(放棄する人)の戸籍謄本 相続人であることを確認する書類
収入印紙 申述人1人につき800円
連絡用の郵便切手 家庭裁判所ごとに指定された額

費用面では、収入印紙が申述人1人あたり800円、これに家庭裁判所ごとに定められた連絡用の郵便切手(数百円程度)が加わります。戸籍謄本などの取得費用は別途かかりますが、手続き自体の実費としては比較的少額に収まるのが一般的です。弁護士・司法書士に手続きを依頼する場合は、これに専門家報酬が加わります。

📖 出典・条文
民法938条「相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない」。申述先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所とされ、収入印紙800円(申述人1人につき)と連絡用郵便切手が必要とされています(家庭裁判所の案内による)。

ステップ3:申述→照会書→受理通知書

申述書を提出すると、家庭裁判所から照会書(回答書)が送られてくることがあります。これは、相続の開始を知った時期や、相続財産を処分していないかなどを確認するための書面で、必要事項を記入して返送します。内容に問題がなければ、申述が受理されます。

申述が受理されると、家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が交付されます。これが、相続放棄が正式に受理されたことを示す書類です。債権者に対して「相続を放棄したので支払い義務はない」と示す際などに用いられます。なお、金融機関などから求められた場合には、別途相続放棄申述受理証明書を家庭裁判所に申請して取得することもあります。

⚠️ 注意
相続放棄の受理は、書類が形式的に整っているかを中心に判断されるものであり、受理されたからといって、あらゆる争いから完全に守られると保証されるわけではありません。債権者との間で争いが生じるおそれがある場合や、判断に迷う場合は、弁護士に相談したうえで手続きを進めることが望ましいといえます。
✅ 本章のまとめ
☑ 申述先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所(民法938条)
☑ 相続放棄申述書+戸籍関係書類+収入印紙800円+郵便切手が必要
☑ 受理されると「相続放棄申述受理通知書」が交付され、放棄が正式に成立する

第4章 やってはいけないこと(法定単純承認)

🎯 この章で解説すること
・相続財産を「処分」すると放棄できなくなる仕組み(法定単純承認)
・具体的に何をすると危険なのか
・一度受理された放棄は撤回できないというルール

相続放棄を検討している方が最も注意すべきなのが、相続財産に手をつけると、相続を承認したものとみなされ、放棄ができなくなるという点です。これを法定単純承認(ほうていたんじゅんしょうにん)といいます。よかれと思って行った行為が、結果的に放棄の権利を失わせてしまうことがあるため、注意が必要です。

📖 出典・条文
民法921条は、次のような場合に相続人が単純承認をしたものとみなすと定めています。①相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき(保存行為等を除く)、②熟慮期間内に限定承認・相続放棄をしなかったとき、③放棄後であっても、相続財産を隠したり、私的に消費したりしたときなど。

「処分」にあたりうる危険な行為

では、具体的にどのような行為が「処分」にあたり、法定単純承認とみなされるおそれがあるのでしょうか。一般に注意が必要とされるのは、被相続人の預貯金を引き出して自分のために使う、相続財産である不動産や車を売却する、被相続人名義の債権について支払いを受けて自分のものにする、といった行為です。これらは相続財産を自分のものとして扱う行為であり、「相続する意思がある」とみなされる方向に働きやすいとされています。

行為の例 一般的な考え方(個別判断)
被相続人の預金を引き出し生活費等に使った 処分とみなされ放棄できなくなるおそれ
相続した不動産・車を売却した 処分とみなされるおそれが高い
被相続人の債務を相続財産から弁済した 慎重な判断が必要とされる
社会通念上相当な範囲の葬儀費用の支出 直ちに処分とはされないとする裁判例もある
形見分け程度の少額な遺品の受け取り 一般に問題となりにくいとされる
⚠️ 注意
どこまでが「処分」にあたるかは、金額や状況によって個別に判断される非常にデリケートな問題です。上の表はあくまで一般的な考え方の目安であり、「これなら大丈夫」と自己判断で相続財産に手をつけるのは危険です。相続放棄を少しでも検討しているなら、財産にはできるだけ触れず、まず専門家に相談することをおすすめします。

一度受理された相続放棄は撤回できない

もうひとつ知っておきたいのが、相続放棄はいったん家庭裁判所に受理されると、原則として撤回できないという点です(民法919条1項)。「放棄したけれど、あとから多額の預金が見つかったので、やはり相続したい」といっても、原則としてやり直しはできません。

📖 出典・条文
民法919条1項「相続の承認及び放棄は、第915条第1項の期間内でも、撤回することができない」。ただし、詐欺・強迫による場合など、民法の定める一定の事由があるときは取消しが認められる余地があるとされています(同条2項)。

このように、相続放棄は「後戻りできない選択」です。だからこそ、放棄する前に相続財産の全体像をできる限り把握し、プラスの財産とマイナスの財産のどちらが大きいのかを見極めることが重要になります。当社では、相続した不動産にどの程度の価値があるのかを整理・査定し、判断材料をそろえるお手伝いをしています。「不動産があるが借金も多く、放棄すべきか迷っている」という段階からご相談いただけます。

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✅ 本章のまとめ
☑ 相続財産を処分・消費すると法定単純承認とみなされ放棄できなくなる(民法921条)
☑ 預金の使用・不動産の売却などは危険。放棄検討中は財産に触れないのが原則
☑ 一度受理された相続放棄は原則撤回できない(民法919条)ため、事前の財産把握が重要

第5章 放棄後の管理義務と次順位への影響(民法940条)

🎯 この章で解説すること
・放棄しても財産の管理義務が残る場合がある(2023年施行の改正民法940条)
・自分が放棄すると相続権が次順位へ移るという連鎖
・親族への事前連絡がなぜ大切なのか

相続放棄をすれば、それで一切の関わりがなくなる——そう考えたくなりますが、実際には注意すべき点が2つ残ります。ひとつは放棄後の管理義務、もうひとつは次順位の相続人への相続権の移動です。とくに不要な不動産を理由に放棄する場合、この2点を知らないと思わぬトラブルにつながることがあります。

放棄しても残る「保存義務」(改正民法940条)

「不要な実家を相続したくないから放棄する」というケースでよく問題になるのが、放棄した後も、一定の場合には財産の管理(保存)義務が残るという点です。2023年4月に施行された改正民法940条により、この管理義務のルールが見直されました。

📖 出典・条文
改正民法940条1項(2023年4月1日施行)は、相続放棄をした者は、その放棄の時に現に占有している相続財産があるときは、相続人または相続財産清算人に引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならないと定めています。

改正のポイントは、義務を負う対象が「放棄の時に現に占有している」財産に整理されたことです。たとえば、被相続人と同居していた実家に住み続けている相続人が放棄した場合、その建物などについては、次の管理者に引き渡すまでの間、一定の保存義務を負う可能性があります。一方、遠方にあって一度も占有したことのない土地などについては、この義務の対象になりにくいと整理されています。当社では、放棄後の管理義務や民法940条の考え方を扱った記事も別途ご用意していますので、あわせてご参照ください。

⚠️ 注意
「放棄すれば管理から完全に解放される」とは限りません。現に占有している空き家や土地がある場合は、引き渡しまでの保存義務が残ることがあります。空き家の放置は倒壊・近隣トラブルの原因にもなりかねないため、放棄を検討する段階で、放棄後にその不動産を誰がどう管理するのかまで見通しておくことが大切です。

自分が放棄すると相続権は次順位へ移る

もうひとつ見落とされがちなのが、相続放棄によって相続権が次の順位の人へ移っていくという点です。相続放棄をすると、その人は初めから相続人でなかったものとみなされるため(民法939条)、相続権は法定相続順位に従って次の人へと移動します。

たとえば、被相続人に借金があり、配偶者と子ども全員が相続放棄をしたとします。この場合、相続権は第2順位である被相続人の親(直系尊属)へ移り、親も放棄すれば、さらに第3順位である被相続人の兄弟姉妹へと移っていきます。子どもが放棄したことを知らされていない被相続人の兄弟姉妹が、ある日突然、債権者から督促を受けて驚く——というトラブルは実際に起こりえます。

順位 相続人(配偶者は常に相続人) 前順位が全員放棄すると
第1順位 子(およびその代襲者) 第2順位へ移る
第2順位 直系尊属(親など) 第3順位へ移る
第3順位 兄弟姉妹(およびその子) さらに先はなく相続人不存在へ

このため、借金を理由に相続放棄をする場合は、自分が放棄すれば次に誰へ相続権が移るのかを考え、あらかじめ次順位となる親族に事情を伝えておくという配慮が望まれます。関係する親族がまとめて放棄手続きを進めることで、「知らないうちに借金を相続していた」という事態を避けやすくなります。全員が放棄して相続人がいなくなった場合は、家庭裁判所が選任する相続財産清算人が財産を清算する流れになります。

✅ 本章のまとめ
☑ 放棄時に現に占有している財産には保存義務が残る場合がある(改正民法940条・2023年施行)
☑ 自分が放棄すると相続権は第1→第2→第3順位へと次の親族に移る
☑ 借金を理由に放棄する際は、次順位の親族への事前連絡が大切

第6章 よくある質問(Q&A)

🎯 この章で解説すること
・相続放棄について実務でよく寄せられる疑問への回答
・期限・費用・不動産にまつわる素朴な質問の整理

Q1.3ヶ月を過ぎてしまったら、もう放棄はできませんか?

原則として熟慮期間は3ヶ月ですが、必ずしも一律に「死亡日から3ヶ月」で締め切られるわけではありません。たとえば、被相続人に借金がないと信じる相当な理由があり、あとから借金の存在を知ったような場合には、その借金を知った時などを起算点として、例外的に申述が受理されることもあるとされています。ただし、これは個別の事情に基づく判断であり、認められるとは限りません。「過ぎてしまったかもしれない」場合こそ、あきらめる前に弁護士・司法書士へご相談ください。

Q2.相続放棄の費用はどのくらいかかりますか?

手続き自体の実費は、収入印紙800円(申述人1人あたり)と連絡用の郵便切手(家庭裁判所指定の数百円程度)、それに戸籍謄本などの取得費用を合わせても、比較的少額に収まるのが一般的です。自分で手続きを行えば実費のみですが、弁護士・司法書士に依頼する場合は、これに専門家報酬が加わります。相続関係が複雑な場合や期限が迫っている場合は、専門家に依頼するほうが確実です。

Q3.親族に「放棄する」と口約束すれば、放棄したことになりますか?

いいえ。親族間で「自分は相続を放棄する」と口頭で約束したり、遺産分割協議で財産を受け取らないと決めたりしても、それは法律上の相続放棄にはあたりません。法律上の相続放棄は、あくまで家庭裁判所への申述によって行う必要があります。口約束だけでは借金の返済義務も消えないため、借金を引き継ぎたくない場合は必ず家庭裁判所での手続きが必要です。

Q4.相続放棄をすると、生命保険金も受け取れなくなりますか?

受取人が指定された生命保険金は、一般に受取人固有の財産とされ、相続財産そのものとは区別して扱われることが多いとされています。このため、相続放棄をしても、受取人となっている生命保険金は受け取れる場合があります。ただし、契約内容や受取人の指定によって取り扱いが異なり、税務上の論点(みなし相続財産など)もあるため、具体的なケースでは専門家にご確認ください。

Q5.不要な土地だけ放棄して、預金は相続することはできますか?

できません。相続放棄は、プラスの財産もマイナスの財産もすべてまとめて引き継がない手続きであり、「いらない不動産だけ放棄して預金は受け取る」という選び方はできません。不要な不動産だけを手放したい場合は、放棄ではなく、相続したうえで売却・引取・国庫帰属制度の活用などを検討する方向になります。どの方法が適しているかは、不動産の状況によって変わりますので、まずは現状を整理することをおすすめします。

✅ 本章のまとめ
☑ 3ヶ月経過後でも起算点の考え方によっては受理される場合があり、あきらめず専門家に相談
☑ 実費は収入印紙800円+切手+戸籍代と少額。依頼時は専門家報酬が加わる
☑ 口約束は放棄にならず、不要な不動産だけを選んで放棄することもできない

まとめ

相続放棄は、被相続人の借金や不要な財産を引き継がずに済む有効な手段ですが、「知った時から3ヶ月」という厳しい期限と、相続財産に手をつけると放棄できなくなる(法定単純承認)という落とし穴があります。親族への口約束では成立せず、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所への申述という正式な手続きが必要です。

また、放棄すればすべてが終わるわけではなく、現に占有している財産には保存義務が残る場合があること(改正民法940条・2023年施行)、自分が放棄すれば相続権が次順位の親族へ移っていくことも押さえておく必要があります。とりわけ借金を理由に放棄する場合は、次順位の親族への事前連絡という配慮が欠かせません。

💡 本記事の要点(3つ)
① 相続放棄は「知った時から3ヶ月以内」に家庭裁判所へ申述する(民法915条・938条)。過ぎそうなら期間伸長を検討
② 相続財産を処分・消費すると法定単純承認とみなされ放棄できなくなる(民法921条)。受理後は撤回不可(民法919条)
③ 放棄後も現に占有する財産には保存義務が残る場合があり(民法940条)、相続権は次順位へ移る。親族への連絡が大切

相続放棄は、いったん受理されると後戻りできない重い選択です。だからこそ、放棄する前に相続財産の全体像を把握し、プラスとマイナスのどちらが大きいのかを見極めることが何より重要になります。当社では、相続した不動産の価値や状況を整理・査定し、「承認すべきか、放棄を検討すべきか」の判断材料をそろえるお手伝いをしています。不動産の取り扱いにお悩みの方は、放棄の期限が来る前に、お早めにご相談ください。

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🚨 免責事項
本記事は2026年7月時点の法令・制度をもとにした一般的な情報提供であり、個別の相続放棄の可否や手続きの結果を保証するものではありません。熟慮期間の起算点、必要書類、法定単純承認にあたるかどうかの判断、放棄後の管理義務や税務上の取り扱いなどは、個々のご事情によって異なります。具体的な手続きにあたっては、弁護士・司法書士・税理士等の専門家へ必ずご確認ください。

運営:ヘリテージリンク株式会社|東京・埼玉エリアの相続不動産・空き家の査定・売却・管理

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